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SDGsがもたらした社会の変化\n2.1 エシカル消費とは\n2.2 エシカル消費に関する議論\n3. 外部からの倫理規範確立の要請\n4. CSRと競争戦略\n5. おわりに\n1.はじめに\nグローバル経済の進展は.人々や企業に国境を越えた活動の機会を与えた。それにより,個人は自分の可能性をより広げることを可能とし.企業はサプライチェーンを効率的なものとしたり,新たなバリューチェーンを構築したり,新規事業機会を得ることができた。その成果として,途上国における絶対的な貧困を減らし.大きな経済成長をもたらした。それを端的に示しているのは,世界のジニ係数I), 1990年には0.703だったものが. 2010年には0.623へと減少して(「通商白書2017』.p.184) いる点である。全世界の一人当たりGDPの伸びは. 1990年から2015年までに2.37倍(同上. p.185) であったが.BRIC(ブラジル,ロシア,インド及び中国)の同期間の平均は3.82倍なのに対し. OECD加盟国の平均は2.07倍(同上. p.185) に過ぎないのである。また,途上国の人々の平均寿命は.例えば,南アジアで1990年に58.6歳であったものが. 2010年には65.5歳.アフリカで同年に47.9歳であったものが54.3歳へと改善した(大塚2014)。このようにグローバル経済は途上国や新興国にとって大きな果実をもたらした。しかしながら.マクロにおける光の側面だけに着目してはならず. ミクロにおける影の側面にも着目しなくてはならない。貧富の格差の拡大という負の側面が存在していることも確かである。タイル指数2)では,国際格差は1990年に0.734だったものが, 2010年には0.479と大きく減少しているのに対し.国内格差は同年に0.215だったものが, 0.244へと逆に拡大しているのである(同上, p.185)。このような現状は,ピケティが「格差拡大を放置する最大のリスクは,多くの人々がグローバル化が自身のためにならないと感じ,極端な国家主義(ナショナリズム)に向かってしまうことだ。欧州では極右勢力などが支持を伸ばしている。外国人労働者を排斥しようとし欧州連合(EU) 執行部やドイツなどを非難する。」(日本経済新聞2014) と懸念するように,排外主義やテロなどを生み出し,民主主義の適切な運営や円滑な企業活動を損なうものとなろう。実際,アメリカでは,排外主義を掲げたトランプ政権(2017~2021) が誕生し.欧州各国でも国粋主義や排外主義的政策を掲げる政党の支持率が上昇してきている。ただし.国粋・排外主義が伸びているだけではなく.極端な左派的政治勢力も同時に伸びてお\nり.社会の分断が深刻になってきているともいえよう。そのような現状であるがために.企業に対する要請や期待として.事業を通じた社会課題の解決が求められるようになってきているのである。このようなコンテクストから.人々が社会問題を自分事として考えるようになり, ESG投資3)の総額が増大し.株価に大きな影響を与えるようになったのである。そして. 日常的な消費行動の中にもエシカル消費という考えが広がりつつあるのである。このような流れは,経営トップの意思決定にも大きな影響を与え,CSR活動の活発化と事業に社会的課題を解決する要素を組み込むことにつながるのである。本稿は,このような企業を取り巻く外部環境の変化が事業にどのような影響を与えるのかについて考察していく\nことを目的としている。\n2. SDGsがもたらした社会の変化\nSDGs (Sustainable Development Goals) とは国連が提唱した「誰ひとり置き去りにすることなく,全ての人々の尊厳が確保されるような世界を実現する」ための. 2015年から2030年までに達成を目指す17のゴールと169のターゲットから成る開発目標4)である。どのようなゴールが設定されているかというと.\n(1) あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる。\n(2) 飢餓を終わらせ,食料安全保障及び栄養改善を実現し,持続可能な農業を促進する。\n(3) あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し,福祉を促進する。\n(4) すべての人々への,包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し,生涯学習の機会を促進する。\n(5) ジェンダー平等を達成し,すべての女性及び女児の能力強化を行う。\n(6) すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する。\n(7) すべての人々の,安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーヘのアクセスを確保する。\n(8) 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する。\n(9) 強靱なインフラ構築,包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る。\n(10) 各国内及び各国間の不平等を是正する。\n(11) 包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市及び人間居住を実現する。\n(12) 持続可能な生産消費形態を確保する。\n(13) 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。\n(14) 持続可能な開発のために海洋•海洋資源を保全し,持続可能な形で利用する。\n(15) 陸域生態系の保護,回復,持続可能な利用の推進,持続可能な森林の経営,砂漠化への対処,ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する。\n[論文]エシカル消費の浸透による事業に与える影響に関する考察(堀口)\n事業者を応援しながら消費活動を行うこと,である。エシカル消費は, SDGsとかかわりが深く,多くの目標と関係がある。例として,チョコレートに注目してみよう。チョコレートの原料となるカカオ豆は,世界の需要の過半をアフリカ西海岸で収穫されている。欧州の15の非営利団体の2018年版の「カカオ指標(CocoaBarometer)』9)によると,ガーナとコートジポワールだけでも210万人の子どもがカカオ農園で働いていると推定されている。うち約1万6000人は,家族や人身売買業者によって強制的に働かされているとされる。つまり,チョコレート産業には, SDGlとSDG8に関わる問題が存在している。このような環境で収穫されたカカオから生産されたチョコレートを消費することは児童に対する強制労働に間接的に加担していると考える人が増えてきているのである。このような事例は数多くあり,市販されているダイヤモンドなどの宝石類には,紛争のための資金源として採掘されたものがあり,欧州のジュエリーメゾンのパンフレットには,ジュエリーに使用されている宝石が紛争と関わり合いのない宝石であることが明記されている。また,ヨーロッパのハイプランドがミンクなどの毛皮の商品を扱わなくなったのも同様のコンテクストからである。ヴェブレンが顕示的消費という概念を生み出した20世紀の初頭では,自分の財力や社会的地位を示すために高級な商品を購入して消費することを人々が行っていたが,現代の社会においては,社会的課題を意識していること,つまり加害者ではないことを他者に\n対して顕示する必要性が生じているといえよう。\n2.2 エシカル消費に関する議論\n近年.人新世(ひとしんせい)という用語が良く使われている。人新世とは, Anthropoceneの訳語でパウル・クルッツェンが提唱した人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代を指す。これはいまだ地質学で正式に承認されたものではないが.環境汚染・破壊の深刻化と共にこの用語の社会的な認知が広がってきている。そしてこの用語の誕生と使用の急速な拡大は.人間の倫理観が地球環境に害を与えているという考えによるであろう。そうすると.人類は自分自身や地球環境を守るために.どのような倫理観を持つことが良いのかという議論が必要になるが.それに対しては多様な主張がある。山本(2017) の整理では,人間中心主義(Reganなど).動物中心主義(Singerなど),生命中心主義(NoessやTaylorなど).生態系中心主義(Leopoldなど)等が存在するとされる。社会思想の対立に深く立ち入ることは.本稿の目的から逸脱してしまうため詳細は論じない。ロールズが正\n義論で論じたように,一部の人にとっては「善」であったとしても.このように多くの倫理的規範が乱立してしまうと,それぞれの規範によって目標とすべき方向性や中身か変化してしまうため, どのような術が社会的課題の解決に資する正しい方法なのかが判然としなくなる。そこで重要になってくるのが国連の定めたSDGsという目標である。この目標があたかも「法」のように機能するのであれば一定の規範を人々に与え得るであろう。ェシカル消費の事例を見ながら考察を続けてみよう。消費者庁は,サステナブルファッション習慣を勧めている。その理由として,(1)世界全体で,毎秒トラック1台分の衣服が埋め立て又は焼却処分され,人間活動で排出される炭素の10%が衣服生産段階で排出される(国際航空•海運分野の排出量の合計よりも大きい)。(2)毎年930{鼠m3の水(500万人分の生活に必要な水の量に相当)を使用し,毎年衣服から出るマイクロ・プラスチック50万トンが海洋に放出(500億本分のペットボトルに相当)されている10)の2点を挙げる。つまり消費者が関連するSDGsの目標を基準に,購入の意思決定をするのであれば,企業が努力をし,原材料の選別やリサイクル,さらにはサプライチェーン構造がより良いものに変化していくと指摘しているのである。確かに消費者の選別によって,先進各国の河川の汚染は以前よりも改善してきており消費者の意思決定が企業の事業構造や戦略に大きな変化を与えるといえよう。\n3. 外部からの倫理規範確立の要請\n近年,企業外部から企業活動に対する監視が厳しくなってきている。2000年になる前であれば,倫理に関わるものであれば,消費者,マスコミ,政府,労働組合, NGOなどからの監視が主なものであった。しかし,近年では,株主からの強い監視がなされるようになってきた。欧米では,ファンドの性格が利益を評価基準としたものからESGを評価基準にしたものに変化をし始めており, ESG投資の総額が年々大きくなってきている。Global Sustainable Investment Review 2020 11)によれば,投資残高は以下のようになっている。(1) ネガティブ・スクリーニング\n外形的基準で特定のセクターや個別企業をポートフォリオから除外。\n(2) ESGインテグレーション\n投資プロセスにESG要因を組み入れて投資判断。\n(3) エンゲージメント・議決権行使\nESGの課題について,株主として議決権行使や,企業にエンゲージメントを行い改善を促す。(4) 国際規範スクリーニング\n国際的な規範に違反した企業をポートフォリオから除外。\n(5) ポジテイプ・スクリーニング\n各セクター内でESGレーティングが高評価の企業でポートフォリオを構築。\n(6) サステナプルテーマ投資\n特定のテーマ(クリーンエネルギー.女性活躍等)を投資アイデイアとする。\n(7) インパクト投資\n社会問題.環境問題の解決を目的とした投資。\nGlobal Sustainable Investment Review 2020のアンケート調査によると,これらの中で選択されるウエイトには偏りがある。ヨーロッパでは,国際規範スクリーニングが74%,ネガティブ・スクリーニングが61%でウエイトが重くなっている。アメリカ合衆国では.サステナブルテーマ投資が86%, ESGインテグレーションが64%.インパクト投資60%が重視されている。日本では.エンゲージメント・議決権行使が17%.ポジティブ・スクリーニングが10%となっている。非常に興味深いのは.それぞれの国の社会環境がそのまま.ウエイトの違いに表れている。アメリカでは,社会問題としてジェンダーや人種問題があり.化石燃料の過剰消費という課題がある。それに対して.ヨーロッパでは. EU指令を活用した欧州各国の統一的社会規範の創成が重要なテーマとなっている。これらの課題への貢献を目に見える形で示すことが求められているといえよう。投資家の行動は株の売買に留まらない。投資家は取締役を送り込み.企業の戦略の変更を求めることもある。アメリカの石油メジャーであるエクソンモービルの取締役に.ヘッジファンドのエンジン・ナンバーワンが推薦する3人が選任13)された。会社による推薦候補が9名.ファンドの推薦候補が3名の構成となる。それにより.ダレン・ウッズ会長兼最高経営責任者は「すべての取締役とともに長期的な株主価値向上と低炭素の未来での成功に向けて積み上げた進歩を強化できるよう,取り組みを進めることを期待する」と石油会社にも拘らず,低炭素を強調しなくてはならなかった。ここで注目する必要があるのは,エンジン・ナンバーワンはエクソンモービル全株式の0.02%しか保有しておらず,他の株主が賛同したからこのような結果になったのである。日本経済新聞によれば, 日本においても住友商事の株主総会(2021年6月18日)において,環境NGOのマーケット・フォースが地球温暖化の国際的な枠組み「パリ協定」の目標に沿った事業計画の策定と開示に向けて定款変更を求めてきたが,約2割の\n賛成票のみで否決されたとある14)。同様の提案は,イギリスのHSBCホールデイングス, 日本の三菱UFJフィナンシャル・グループでも出ている。今後の企業は利益創出を行い,株主を中心としたステークホルダーたちに適切に分配すれば良いのではなく,利益創出の方法が問われていくことになるのであろう。つまり戦略の転換が必要になるといっても過言でない。\n4. CSRと競争戦略\n欧米での倫理規範の基盤となっているキリスト教では.宗派や時代によって差異はあるが.富をマモン(Mammon)15)と称し.否定的に捉えることが少なくない。例えば,ルターはマモンを偶像扱いし16)•信仰を妨げるものと見なしていた。そのような倫理観が社会を覆っている欧米では,商人や企業家が富を蓄えることは良いことと考えられず,富を蓄えた商人や企業家たちは得た利益の一部を原資にして,フィランソロピーを盛んに行っている。具体例は無数にあるが.有名なものを2点あげると. ドイツを代表する企業に成長したロバート・ボッシュ社(Robert Bosch GmbH) の創業者であるロバート・ポッシュは財団(Robert Bosch Stiftung) を設立し.その財団がボッシュ社の支配株主となることで収益の多くを.「ヘルスケア」.「教育」.「地球規模の課題」17)を対象とした社会貢献に使っている。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツと妻のメリンダ・ゲイツがビル&メリンダ・ゲイツ財団18)を設立して.慈善活動を行っている。創業者または創業一族が株式の過半を所有している時期は.企業活動で得た富は創業者または創業一族が多くを得ることになるので.自己利益と他者利益とのバランスは所有者が考えればよいことになる。しかしながら,所有と経営が分離され始めると,基本的人権の一部に分類され得る所有権を有していない経営者が富の処分または分配を担うようになる。経営者はプログラミングされた存在ではないので,株主利益を顧みない経営者が現れるようになった。そうすると恣意的な意思決定が疑われ,明確に利益をもたらすか分からないフィランソロピーを実行することは批判にさらされるよう\nになる。フィランソロピーは経営者の好みで内容が変化することも問題であるとされた。\nそれを受けて.利益の社会的課題に支出する正当性を得る枠組みとして,ポーター=クラマー(2006)は.「Creating Shared Value」と称する考えを提唱した。つまり.社会的課題に取り組むことで経済的利益が創造されるとしたのである。ポーター=クラマーは,経営者の善意でしかない寄付行為を,事業の成功の可能性を向上させたり.企業のプランド価値を向上させたりする行為であると再定義したのである。ここでさらにポーター=クラマーの理論的枠組みを丁寧に見ていこう。ポーター=クラマー(2011) に依れば,市場は「経済的ニーズ」(p.12) だけではなく「社会的ニーズ」(p.12) によって形成されており,その市場に相応しい製品を提供することで.企業は顧客に受け入れられる。さらに「社会的ニーズを常に探し求めることで,既存市場において差別化とリポジショニングのチャンス」(p.16)を見出せるとした。つまり.社会的ニーズを捉えることは.利益に貢献できるという事なのである。したがって.ポーター=クラマーの「creatingshared value(共通価値の創造)」は,シェアホルダーへの強い配慮がなされており.利益創出を中心に考え,利益創出に資するから社会貢献が必要なのだと論じているのである。\nほぼ同時期にハートは類似した概念を提唱しているがその内容はポーターとは大きな差異がある。ハート(2007) は「creatingmutual value(相互価値の創造)」という概念を示した。それが意味するところは.困難な状況下におかれている途上国の人々が求めている「ニーズと,つねに変化する期待」(London and Hart 2011, p.78)に応え得る.貨幣的価値に留まらない社会的価値を生み出すことである。そしてそれは.企業と共に「非営利団体や地域をベースとする組織」(同上. p.70) が形成するプラットフォームが生み出すのである。ハートは.利益を出すことが最終目的ではなく.社会貢献を通じて新たな価値形態を生み出しことに力を入れるべきだという主張したのである。ポーターとハートの差異は本質的な側面において大きなものであると考えるが.行為としての「社会的課題に対する貢献」をなすという事にはかわりがない。それが必要なのは.先に述べてきた社会の変化が理由である。企業活動は.人が求めている財・サービスを提供することによって成り立っている。貨幣経済が始まる前の物々交換の時代.商品を少ししか運ぶことしかできなかったキャラバン隊の時\n代. どのような時代においてもその事実に変わりがない。人々が財・サービスそのものだけではなく.消費者がそれが創り出される過程.消費する過程.廃棄する過程にも何らかの新たな欲求を持つときには.提供者は消費者の欲求に応えることなしに消費者の持つ貨幣と財・サービスの取引が成立しなくなる。欧州企業ではCSRには専任の担当役員が就任するのが通常の事となり,戦略立案時に,例えばカーボンニュートラルヘの貢献のようなCSRへの考慮を行うようになってきている。それが成功するかどうかは今後の展開を見る必要があるが, H\u0026Mや良品計画がジェンダーレスの服の販売を始めたのもその流れの一環である。つまり,ェシカル消費を消費者が求めればそれにこたえる必要があるのだ。\n5. おわりに\n本稿は.現代社会が消費者の選好や社会の要請が変質しつつある変革期であるという認識から執筆したものである。社会の在り方を変えてしまうような大転換は技術の発展からだけではなく.社会構造の変化によってももたらされる。退陣表明をした菅首相を首班とする内閣では.カーボンニュートラルヘの取り組みを積極的に推進していた。これは日本が諸外国と比してカーボンニュートラルヘの変化が遅れていたという現実があったからなされていたのであろうが,菅首相の意志でもあったのであろう。カーボンニュートラルを一気に\n進めると産業に混乱を引き起こし.社会に大きなコストを背負わせることにつながるのは間違いない。トランプ政権がカーボンニュートラルに冷淡だったのはそれが理由であろう。ただ, SDGsでは地球環境への配慮が求められており.世界がこのルールを前提に進んでいるとすれば. 日本や日本企業だけその方向性に歯向かうのは難しいであろう。したがってスピードには議論があるにしても為さなければならないのである。社会の変化はリスクとチャンスを同時に生み出す。競争環境が変化したならば.いち早く戦略を組み替え.必要なら神戸大学の三品教授が主張しているような事業の転地をするなどして.組織を戦略に従わせていく必要があると考える。そのような考えから.本稿では,ェシカル消費が拡大してきているという環境変化を手掛かりに考察を行った。SDGsと企業戦略の関係に関する考察は.未だ端緒に就いたばかりである。本稿も序論の域を出ていない。その反省を踏まえ.今後はさらなる理論の整理と事例の検証を行いたいと考えている。\n経営論叢第11巻第1号(2021年9月)\n注\nl) ジニ係数とは,格差を表す指標一種である。45度線とローレンツ曲線によって囲まれる領域の面積と, 45度線の下部の面積との比として定義される。0から1の間の数値を取り, 1に近づくほど格差が大きくなる。\n2) タイル指数とは,格差を表す指標一種である。所得(支出)の総計に占める個人の所得(支出)の割合と平均所得(支出)に対する個人の所得(支出)の比として定義される。0から1の間の数値を取り, 1に近づくほど格差が大きくなる。\n3) ESG 投資とは,投資先選定においてEnvironment (環境), Social (社会) •Governance (企業統治)を複合的に評価し,企業の成長可能性や持続可能性などを検討すること。\n4) 外務省による訳\nhttps:/ /www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf (2021年9月1日閲覧)\n5) 世界経済フォーラムホームページ\nhttps://www.weforum.org/press/2019/09/ global-survey-shows-74- are-aware-of-the-sustainabledevelopment-goals/ (2021年9月1日閲覧)\n6) 世代効果はDouble machine learning手法で検証し, C-3とC-5が統計的に有意であることが判明している。\nhttps://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/l58463/202102l2_pr03.pdf (2021年9月1日閲覧)\n7) Gi:ittinger Tageblatt (2017年9月25日) FaireProdukte im Fair-0-mat\nhttps://www.goettinger-tageblatt.de/Campus/Goettingen/Fair-o-mat-in-Goettingen-Angebot-im-\nHoersaalgebaeude-der-Universitaet (2021年9月1日閲覧)\n8) 消費者庁ホームページ\nhttps:/ /www.caa.go.jp/policies/policy /co nsumer_ education/public_awareness/ ethical/ about/ (2021年9月1日閲覧)\n9) VOICE Networkホームページ\nhttps://www.voicenetwork.eu/ cocoa-barometer/ (2021年9月1日閲覧)\n10) 消費者庁ホームページ「サステナプルファッション習慣のすすめ」\nhttps://www.ethical.caa.go.jp/sustainable/ (2021年9月1日閲覧)\n11) Global Sustainable Investment Review 2020\nhttp:/ /www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2021/07 /GSIR-2020.pdf (2021年9月1日閲覧)\n12) 財務省資料\nhttps:/ /www.mof.go.jp/pri/ research/ seminar /fy2021/lm20210622.pdf (2021年9月1日閲覧)\n13) CNN (2021) 米エクソン,環境活動家の取締役が3人にヘッジファンドが推薦(2021年6月3日)\nhttps://www.cnn.co.jp/business/35171741.html (2021年9月1日閲覧)\n14) 日本経済新聞(2021) 「「これで終わりではない」エクソン総会, 0.02%の衝撃(2021年6月298)」\nhttps:/ /www.nikkei.com/ article/DGXZQOGD21 CN50R20C21 A6000000/?unlock= 1 (2021年9月1日閲覧)\n15) マモンについては多々の解釈が存在する。例えば, BrockhausKonversations-Lexikon 1894-1896。https:/ /www.retrobibliothek.de/retrobib/ seite.html?werk= Brockhaus\u0026id= 131072\u0026imageview=true (2021年9月18閲覧)\n16) allergemeinste Abgott ist auf Erden(地上で最も日常的に存在する偶像)\nhttps://www.1uther20l7.de/wiki/geld/gott-oder-mammon-vom-grund-allerwucherkniffe/index.html (2021年9月18閲覧)\n17) ボッシュ社資料\nhttps:/ /www.bosch.co.jp/publications/bosch-today /2021-bosch-today-ja-0l.pdf (2021年9月1日閲覧)\n18) 両者は2021年に婚姻関係に終止符を打ったが財団運営にはパートナーとしてかかわり続けていくと声明を出した。\nhttps://www.bbc.com/japanese/56990213 (2021年9月1日閲覧)\n参考文献\nHart, S.. (2007) Cゅitalism at the Crossroads: Aligning Business, Earth, and Humanity, Wharton School Publishing, New Jersey.\nLondon, T., Hart, S. L. (2010) Next Generati暉BusinessStrategies for the Base of the Pyramid: New Approaches for Build切gMutual Value, Pearson FT Press.(日本語訳)ロンドン,ハート著,清川訳(2011) 「BOPビジネス市場競争の戦略J英知出版。\nPorter, M. E, Kramer, M. R, (2006) Strategy \u0026 Society: The Link Between Competitive Advantage and Corporate Social Responsibility, Harvard Business Review, December 2006, pp.78-93.Porter, M. E, Kramer, M. R.. (2006) Creating Shared Value, Harvard Business Review, Jan.-Feb.. pp.1-17.(日本\n語訳)ポーター,クラマー著,ダイヤモンド編集部訳(2011) 「共通価値の戦略」,「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー」6月号, pp.8-31.Yamane, T., Kaneko, S., (2021) Is the Younger Generation a Driving Force Toward Achieving the Sustainable\nDevelopment Goals? 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エシカル消費の浸透による事業に与える影響に関する考察
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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本文 (1.8 MB)
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Item type | 紀要論文 / Departmental Bulletin Paper(1) | |||||
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公開日 | 2022-04-19 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | エシカル消費の浸透による事業に与える影響に関する考察 | |||||
タイトル | ||||||
言語 | en | |||||
タイトル | Consideration on the Impact of the Penetration of Ethical Consumption on Businesses. | |||||
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言語 | jpn | |||||
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資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_6501 | |||||
資源タイプ | departmental bulletin paper | |||||
見出し | ||||||
大見出し | 論文 | |||||
言語 | ja | |||||
見出し | ||||||
大見出し | ARTICLES | |||||
言語 | en | |||||
著者 |
堀口, 朋亨
× 堀口, 朋亨× HORIGUCHI, Tomonaga |
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著者ID | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | J-GLOBAL ID : 200901015282208895 | |||||
内容記述 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 目次 1. はじめに 2. SDGsがもたらした社会の変化 2.1 エシカル消費とは 2.2 エシカル消費に関する議論 3. 外部からの倫理規範確立の要請 4. CSRと競争戦略 5. おわりに |
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書誌情報 |
国士舘大学経営論叢 en : Kokushikan business review 巻 11, 号 1, p. 37-46, 発行日 2021-09-30 |
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出版者 | ||||||
出版者 | 国士舘大学経営学会 | |||||
ISSN | ||||||
収録物識別子タイプ | ISSN | |||||
収録物識別子 | 2187-1701 | |||||
NCID | ||||||
収録物識別子タイプ | NCID | |||||
収録物識別子 | AA12596708 | |||||
論文ID(NAID) | ||||||
関連タイプ | isIdenticalTo | |||||
識別子タイプ | NAID | |||||
関連識別子 | 40022729990 | |||||
NDC | ||||||
主題Scheme | NDC | |||||
主題 | 335.13 | |||||
フォーマット | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | application/pdf | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | VoR | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_970fb48d4fbd8a85 | |||||
キーワード | ||||||
エシカル消費 ジニ係数 タイル指数 格差拡大 排外主義 ESG投資 SDGs 人新世 倫理観 フィランソロピー | ||||||
注記 | ||||||
通巻第19号 |